- 令和3年判決で布製マスク調達の不開示処分が取り消された概要
- 行政機関の探索義務違反が認定された具体的根拠
- 布製マスク調達業務で作成された文書の開示可否判断
- 情報公開制度における行政機関の適切な対応方法
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
行政機関に情報公開請求をしたとき「文書がありません」と回答された経験はありませんか。
令和3年の東京地方裁判所判決では、布製マスク調達を巡る不開示処分が違法と認定され、行政機関の探索義務違反に国家賠償11万円の支払い命令が出されました。
この判例では厚生労働省と文部科学省が「職員全員がメールを削除した」「保存期間1年未満の文書は対象外」として不開示決定を行ったものの、裁判所は数か月程度で134名全員が完全にメールを削除することは現実的に考えにくいと判断しています。
こんなことでも裁判になるんですね
住民の知る権利を保障するため、行政機関には適切な文書探索を行う法的義務があるのです
- 行政機関の文書探索義務の具体的な範囲と判断基準
- 業者との交渉記録文書と単純な契約内容記録の違い
- 保存期間1年未満文書も情報公開対象となる法的根拠
- 探索義務違反が認定される場合の国家賠償責任
令和3年判決で布製マスク調達の不開示処分が取り消された概要
東京地方裁判所は令和3年、布製マスク調達に関する情報公開請求訴訟で、厚生労働省と文部科学省の一部不開示決定を取り消す判決を言い渡しました。
この判例は、行政機関が「文書が存在しない」として不開示決定する際の探索義務の範囲を具体的に示した重要な事例となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 裁判所 | 東京地方裁判所 |
| 対象事業 | 令和2年度布製マスク配布事業 |
| 原告 | 一般市民 |
| 被告 | 厚生労働大臣・文部科学大臣 |
| 争点 | 調達業者とのやり取り記録の不開示決定の適法性 |
| 結果 | 一部取消し・国家賠償11万円の支払い命令 |
この判決により、行政機関の文書探索義務の具体的基準が明確化され、情報公開制度の適正な運用に向けた重要な指針が示されました。
事件の基本情報と争いの発端
情報公開請求とは、国民が行政機関に保有文書の開示を求める制度で、民主主義の基盤となる知る権利を保障する仕組みです。
本件では、令和2年の新型コロナウイルス対策として政府が実施した布製マスク配布事業で総額約466億円の予算が投入されたことが背景にあります。
原告は調達過程の透明性を求めて、業者との交渉記録や契約変更の経緯を記した文書の開示を請求しました。
| 省庁 | 契約業者数 | 契約件数 | 主な調達業者 |
|---|---|---|---|
| 厚生労働省 | 17社 | 27件 | 興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーション |
| 文部科学省 | 3社 | 5件 | 横井定、福島印刷 |
300円のマスクが130円に値下げされた理由も知りたいですね
その交渉経緯を記録した文書こそが、今回の争いの中心になったのです
しかし両省は「該当する文書は存在しない」「保存期間1年未満のため開示対象外」などの理由で大部分を不開示決定しました。
これを不服とした原告が取消訴訟と国家賠償請求を提起したことが争いの発端となります。
裁判で問題となった争点と判決の要点
争点とは裁判で当事者の主張が対立している問題点のことで、本件では主に2つの観点から判断されました。
裁判所は「やり取り記録文書」について、単なる契約内容の記載ではなく交渉経緯や変更理由が含まれる文書が開示対象になると判断します。
例えば興和との変更契約で単価を300円から130円に値下げした際の「変更理由書」は、業者との交渉内容を含むため開示対象とされました。
| 文書種類 | 判断結果 | 理由 |
|---|---|---|
| 調達管理表 | 開示対象外 | 契約で合意された内容のみ記載 |
| 変更理由書 | 開示対象 | 変更契約に至る交渉経緯を記載 |
| 布製マスク回収関連文書 | 開示対象 | 約1000万枚回収時の交渉記録 |
| 瑕疵担保責任免除特約関連文書 | 開示対象 | 通常付されない国に不利益な特約 |
職員の電子メールまで探索しなければならないのですか
数か月程度では134名全員が完全削除したとは考えにくいと判断されたのです
「購入やり取り文書」については、合同マスクチーム職員134名全員が電子メールを完全削除したとは考えられないとして、探索義務違反を認定しました。
特に保存期間1年未満文書も情報公開法上の行政文書に該当し、一律に探索対象から除外することは職務上の注意義務違反と判断されます。
この判決から分かる不開示処分の違法性判断基準
職務上の注意義務とは、公務員が職務を遂行する際に求められる合理的な注意を尽くす義務で、情報公開請求においては適切な文書探索を行う義務を意味します。
裁判所は行政機関の探索義務について、「文書が存在する合理的な可能性がある場合には十分な探索を行う必要がある」という基準を示しました。
この判断では、業務の性質、関係者の人数、経過期間、文書の重要性などが総合的に考慮されます。
| 判断要素 | 考慮事項 |
|---|---|
| 業務の性質 | 高額随意契約、国会質問対応の必要性 |
| 関係者の状況 | 職員134名の関与、外部業者との交渉 |
| 経過期間 | 契約締結から数か月程度の短期間 |
| 文書の重要性 | 国民の関心が高い政策に関する記録 |
| 保存期間 | 1年未満文書も法的には行政文書に該当 |
繁忙だったから探索が不十分でも仕方ないのでは
月80時間超の時間外労働があってもやむを得ない面はあるが、義務違反は免れないとされました
違法性の判断基準として重要なのは、行政機関が「文書はない」と結論する前に、文書が作成・保存されている合理的可能性を十分検討し、適切な範囲で探索を行ったかという点です。
本判決は、このような探索義務を怠った場合には不開示処分が違法となることを明確に示しました。
行政機関の探索義務違反が認定された具体的根拠
- やり取り記録文書で開示対象となった文書の特徴
- 購入やり取り文書の探索不十分が認められた理由
- 保存期間1年未満文書も開示対象となる法的根拠
- 電子メール完全削除の主張が否定された判断過程
- 職務上注意義務違反が認定された背景事情
令和3年の東京地方裁判所判決では、厚生労働省と文部科学省による「文書が存在しない」という判断が探索義務違反として認定されました。

| 違反類型 | 認定内容 | 具体的根拠 |
|---|---|---|
| やり取り記録文書の探索不足 | 業者との交渉経緯を記録した文書の探索が不十分 | 変更理由書、回収関連文書、特約関連文書が未探索 |
| 購入やり取り文書の探索不足 | 職員の電子メール等の探索が不十分 | 数か月程度では全職員が完全削除していないと推定 |
| 1年未満文書の除外 | 保存期間1年未満文書を一律に探索対象外とした | 情報公開法上の行政文書に該当するため除外は違法 |
| 電子メール削除の主張 | 合同マスクチーム134名全員の完全削除を主張 | 現実的に考えにくいとして裁判所が否定 |
裁判所は行政機関が十分な探索を行わず、住民の知る権利を侵害したと判断しています。
やり取り記録文書で開示対象となった文書の特徴
やり取り記録文書とは、行政職員と調達業者との間で行われた交渉や協議の内容を記録した行政文書のことです。
裁判所は興和との変更契約において、単価を300円から130円へ大幅値下げした経緯を記録した変更理由書の存在を認定しました。

| 文書種別 | 開示判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 調達管理表 | 開示対象外 | 契約で合意された内容のみ記載、交渉過程なし |
| 変更理由書 | 開示対象 | 変更契約に至る経緯や理由が記載 |
| 回収関連文書 | 開示対象 | 1000万枚回収時の交渉・協議内容を記録 |
| 打合せ記録 | 開示対象 | 職員間の情報共有や管理職への報告内容 |
| 特約関連文書 | 開示対象 | 通常付されない国に不利益な特約の申出・交渉経緯 |
単に契約内容が書いてあるだけなら開示しなくてもいいの?
交渉の経過や理由が含まれているかどうかで判断が分かれます
調達管理表のように既に合意された契約内容だけが記載された文書は、業者との具体的なやり取りが含まれていないため開示対象外とされました。
購入やり取り文書の探索不十分が認められた理由
購入やり取り文書とは、物品調達に関して行政職員間で交わされた電子メールや添付文書を指す行政文書です。
裁判所は合同マスクチーム職員134名全員が、調達契約締結から処分まで数か月程度で電子メールを完全削除することは現実的に考えにくいと判断しています。

| 判断要素 | 裁判所の認定 |
|---|---|
| 削除の時期 | 契約締結から処分まで数か月程度 |
| 職員数 | 134名(うち布製マスク担当31名) |
| 業務状況 | 月80時間超の時間外労働、国会質問対応203問 |
| 削除の蓋然性 | 全員が完全削除したとは考え難い |
| 文書の重要性 | 請求書・誓約書等の重要文書も含む |
こんなに忙しい状況なら、メールを削除する時間もなかったんじゃない?
まさにその通りで、裁判所も業務の繁忙さから全削除は非現実的と判断しました
特に月80時間を超える時間外労働や国会質問対応に追われる中で、全職員が組織的にメールを削除することは困難だったと認定されています。
保存期間1年未満文書も開示対象となる法的根拠
保存期間1年未満文書とは、電子メールや簡易な行政文書等で各省庁が保存期間を1年未満と位置付けた行政文書のことです。
合同マスクチーム責任者は1年未満文書を情報公開請求の対象外として一律に探索対象から除外していましたが、裁判所はこの判断を職務上注意義務違反と認定しています。

| 法的根拠 | 判断内容 |
|---|---|
| 情報公開法の定義 | 1年未満文書も「行政文書」に該当 |
| 探索義務の範囲 | 保存期間に関わらず探索対象 |
| 除外の違法性 | 一律除外は職務上注意義務違反 |
| 繁忙状況の考慮 | 当時の状況でもやむを得ない面があったと評価 |
保存期間が短い文書まで探さないといけないの?
情報公開法上は保存期間に関係なく、存在する行政文書はすべて対象になります
ただし裁判所は、当時の極めて繁忙な状況を踏まえて、完全な探索ができなかったことにはやむを得ない面があったとも評価しました。
電子メール完全削除の主張が否定された判断過程
行政機関は合同マスクチーム職員が電子メールを完全削除したと主張しましたが、裁判所は現実的な業務状況を踏まえてこの主張を否定しています。
裁判所の判断過程では、布製マスク調達業務の緊急性と重要性、職員134名という大規模体制、国会答弁や報告書作成での文書活用、月80時間超の長時間労働状況が重視されました。

| 否定要素 | 具体的状況 |
|---|---|
| 業務の緊急性 | 新型コロナ対策として緊急実施 |
| 組織の規模 | 最大134名の大規模チーム |
| 文書の重要性 | 国会質問対応203問、うち布製マスク関連114問 |
| 時間的制約 | 過労死ライン超の時間外労働 |
| 管理の複雑さ | 17社27件の複数契約を同時管理 |
これだけ大勢の職員が全員メールを消すなんて、本当にできるの?
裁判所も組織的な完全削除は現実的ではないと判断しています
特に国会質問への答弁作成や各種報告書の作成において、過去のメールを参照する必要があったはずだという点も、完全削除の主張を否定する根拠となりました。
職務上注意義務違反が認定された背景事情
職務上注意義務違反の認定では、行政機関が適切な行政文書探索を怠り、国民の知る権利を侵害したことが重視されています。
裁判所は情報公開制度における行政機関の責務として、開示請求に対して誠実かつ十分な探索を行う義務があると判断しました。

| 背景事情 | 影響度 | 具体的問題 |
|---|---|---|
| 制度理解の不足 | 非常に高い | 1年未満文書も開示対象との認識なし |
| 探索方法の不備 | 非常に高い | 職員への十分な聞き取り未実施 |
| 組織管理の問題 | 高い | メール等の保存・削除ルール不明確 |
| 時間的制約 | 低い | 繁忙により十分な時間確保困難 |
違反認定の背景には、1年未満文書の一律除外という安易な判断、職員への聞き取りや記憶喚起の不十分さ、電子メール等の組織的管理の欠如、開示可能文書の存在を前提とした探索の不実施があります。
役所の人も大変な中で対応していたのに、違反と言われるのは厳しくない?
裁判所も繁忙な状況は考慮していますが、住民の知る権利を守る責任は変わらないということです
判決では当時の極めて困難な状況に一定の理解を示しつつも、情報公開制度の重要性から、可能な限りの探索義務は免除されないと判断されました。
布製マスク調達業務で作成された文書の開示可否判断
この判決では、布製マスク調達で作成された文書の性質を詳細に分析し、開示・不開示の判断基準が明確化されました。
契約内容の記載か交渉経緯の記録かという区分が最も重要なポイントになります。
| 文書名 | 判断結果 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 調達管理表 | 不開示適法 | 契約で合意された内容のみ記載 |
| 変更理由書 | 開示対象 | 交渉経緯や理由を説明 |
| 瑕疵担保責任免除特約関連文書 | 開示対象 | 申出内容や交渉経緯を記録 |
| 布製マスク回収関連文書 | 開示対象 | 約1000万枚回収時の交渉記録 |
| 職員間打合せ記録(厚労省) | 開示対象 | 情報共有や管理職への報告記録 |
| 職員間打合せ記録(文科省) | 不開示適法 | 作成された推認が困難 |
単なる契約内容の確認ではなく、業者との交渉過程や意思決定の経緯を記録した文書が開示対象となる基準を示した重要な判例です。
調達管理表が開示対象外とされた理由
調達管理表とは、調達契約で合意された内容等が記載された一覧表のことです。
調達業者との交渉等の内容や経過が記載されていないため、やり取り記録文書に該当しないと判断されました。
この文書には契約相手、契約金額、納期などの確定した情報のみが記録されており、価格交渉の経緯や条件変更の理由といった過程は含まれていませんでした。
裁判所は、完成した契約内容の整理表と業者との交渉記録は性質が異なると判断しています。
調達管理表って、どんな業者とどんな契約をしたかの一覧表ということですか?
そうです。契約金額や納期などの確定した内容だけで、値段交渉の経緯などは含まれていないということです
情報公開制度では、結果の記録と過程の記録を明確に区別して扱うことがこの判断で確立されました。
変更理由書が開示対象となった根拠
変更理由書とは、契約変更に至る経緯や理由を説明する文書のことです。
興和との契約で単価を300円から130円に大幅値下げした経緯を記録したものが開示対象とされました。
裁判所は「変更契約に至る経緯や理由を説明するため、職員と調達業者とのやり取りの概要や要点が記載されている」と認定しています。
130円という56%の大幅な値下げは通常の契約変更とは異なる重要な内容であり、この変更理由を説明した文書の存在が推認されました。
| 変更内容 | 変更前 | 変更後 | 変更率 |
|---|---|---|---|
| 興和との契約単価 | 300円 | 130円 | 56%減 |
130円って半額以下になってますが、なぜこんなに安くなったんでしょうか?
判決では詳細な理由は明記されていませんが、この大幅変更の経緯を説明した文書があると裁判所が推定したということです
契約変更の理由や経緯を説明する文書は、単なる変更内容の記録とは区別して開示対象になることが明確になりました。
瑕疵担保責任免除特約関連文書の扱い
瑕疵担保責任免除特約とは、商品に不具合があっても業者が責任を負わない契約条項のことです。
通常付されない国に不利益な特約であるため、申出内容や交渉経緯を記録した文書の存在が推認されました。
この特約により、興和は布製マスクに不具合があっても責任を負わない契約内容となりました。
通常の政府調達では国が有利な立場で契約を結ぶため、このような国に不利な条件は異例です。
裁判所は、なぜこのような異例な特約が必要だったのかの経緯を記録した文書が作成されたと推定しています。
異例な契約条件ほど、その経緯を説明する文書が作成される可能性が高いという判断基準が示されました。
瑕疵担保責任免除って、不良品があっても業者が責任を取らないということですか?
その通りです。普通なら業者が責任を負うのに、この契約では国が責任を負う異例の内容だったのです
布製マスク回収に関する交渉記録の位置付け
布製マスク回収関連文書とは、不良品発生時の回収作業に関する交渉記録のことです。
約1000万枚の布製マスクを調達業者負担で回収させる際の交渉や協議の内容を記録した文書が開示対象とされました。
大量の布製マスクに汚れや髪の毛混入等の不良品問題が発生し、興和・伊藤忠商事が自主回収を実施しました。
1000万枚という膨大な量の回収を業者負担で行わせるには、相当な交渉が必要だったと考えられます。
| 回収実施業者 | 対象マスク | 問題の内容 |
|---|---|---|
| 興和 | 妊婦向け・全戸向け | 汚れ、髪の毛混入等 |
| 伊藤忠商事 | 妊婦向け・全戸向け | 汚れ、髪の毛混入等 |
この規模の回収交渉では、費用負担や回収方法について詳細な協議が行われ、その記録が作成されたと推定されました。
職員間打合せ記録の省庁別判断の違い
職員間打合せ記録について、厚生労働省分は開示対象、文部科学省分は対象外と省庁によって判断が分かれました。
業務規模や組織体制の違いが判断の分かれ目となっています。
厚生労働省では合同マスクチーム134名の大規模体制で業務を実施しており、情報共有や管理職への報告が不可欠でした。
一方、文部科学省では学校向け配布の限定的な業務であり、打合せ記録作成の必要性が低いと判断されました。
| 省庁 | 判断結果 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 厚生労働省 | 開示対象 | 大規模体制での情報共有が必要 |
| 文部科学省 | 対象外 | 限定的業務で作成推認が困難 |
同じ政府の布製マスク事業なのに、省庁で判断が違うんですね
業務規模や組織体制の違いによって、文書作成の必要性が異なると判断されたためです
業務の規模や性質に応じて文書作成の推定可能性が変わることを示した重要な判断となります。
情報公開制度における行政機関の適切な対応方法
情報公開請求への適切な対応において、文書の探索義務を正確に理解することが何より重要になります。
令和3年の布製マスク調達文書訴訟では、行政機関の探索不足により一部の不開示処分が取り消され、国に11万円の賠償命令が出されました。
| 対応分野 | 重要ポイント | 判決での評価 |
|---|---|---|
| 探索範囲 | 保存期間1年未満文書も対象 | 一律除外で義務違反 |
| 電子メール | 全職員の完全削除は非現実的 | 探索不十分と認定 |
| 交渉記録 | 業者とのやり取り過程を文書化 | 開示対象文書として判断 |
| 打合せ記録 | 職員間の情報共有内容 | 作成推定により開示対象 |
この判例を踏まえた適切な探索と開示判断により、住民の知る権利を尊重しながら行政の説明責任を果たせるでしょう。
文書探索時に確認すべき範囲と手順
行政文書の定義では保存期間1年未満の文書も情報公開法の対象に含まれる点を確実に理解する必要があります。
布製マスク調達事案において、合同マスクチーム責任者が電子メールや簡易文書を一律除外した行為は職務上注意義務違反と認定されました。
探索対象の文書種別と確認範囲は以下の通りです。
| 文書形態 | 確認場所 | 探索上の留意事項 |
|---|---|---|
| 紙文書 | 担当部署の保管庫・個人机 | 簿冊未登録の資料も含む |
| 共有電子ファイル | サーバー・共有フォルダ | 作業用・下書きファイルも対象 |
| 個人保存ファイル | 職員PC・個人フォルダ | 業務関連の全保存データ |
| 電子メール | 送受信ボックス・保存フォルダ | 添付ファイルも別途確認 |
この範囲全部を確認するのは現実的に可能なの?
担当業務に関わった職員を特定し、合理的な範囲内で探索すれば十分です
文書探索の具体的手順として、まず対象業務に関与した全職員をリストアップします。
次に各職員が保有する可能性のある文書類型を整理し、紙文書は部署の文書保管場所および個人の机周辺を、電子文書は共有領域と個人保存領域を系統的に確認することになります。
電子メールについては、布製マスク事案で「数か月程度では全職員が完全削除したとは考え難い」と判断されたことから、送受信履歴および保存フォルダを含めた確認が求められます。
開示・不開示判断で重視される要素
開示対象文書の判断基準として、業者との交渉経過や意思決定過程が記録されているかが最も重要な要素となります。
布製マスク調達では興和との変更理由書は開示対象、調達管理表は対象外という明確な判断が示されました。
両文書の違いは、交渉内容や決定理由の記載有無にあります。
| 文書名称 | 開示判断 | 判断根拠 |
|---|---|---|
| 変更理由書(興和分) | 開示対象 | 300円→130円変更の交渉経緯を記録 |
| 調達管理表 | 開示対象外 | 確定した契約内容のみを記載 |
| 布製マスク回収交渉記録 | 開示対象 | 1000万枚回収の協議過程を記録 |
| 瑕疵担保責任免除特約関連 | 開示対象 | 異例特約の申出経緯を記録 |
| 職員間打合せ記録 | 開示対象(厚労省のみ) | 管理職報告・情報共有の記録 |
単なる契約書と交渉記録の区別方法が分からない
契約書は最終的な合意内容、交渉記録は合意に至る話し合いの過程を記した文書です
開示・不開示の判断要素を正しく把握するため、文書の作成目的と具体的記載内容を詳細に分析することが不可欠です。
契約条件や仕様の記載のみの文書は開示対象外となる傾向がある一方、なぜその条件に決まったのか、どのような議論や交渉を経たのかを示す文書は開示対象となる可能性が高くなります。
特に随意契約や大幅な価格変更を含む案件では、その妥当性や経緯を説明する文書の存在が強く推定されることになります。
住民からの苦情を避けるための実務上の注意点
国民からの苦情や不信を回避するには、不開示決定理由の詳細な説明と透明性のある情報公開手続きが最も効果的です。
布製マスク調達事案では探索範囲の説明不足が問題視され、最終的に国家賠償責任が発生しました。
適切な対応方法と期待される効果は以下の通りです。
| 対応項目 | 具体的方法 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 探索範囲の詳細説明 | 確認した部署・職員・文書種別を明記 | 探索の十分性を客観的に証明 |
| 不開示理由の条文対照 | 該当条項と具体的事由を詳細記載 | 法的根拠の透明性確保 |
| 処理期間の適切管理 | 延長時は理由と新期限を事前通知 | 手続きの公正性向上 |
| 部分開示の積極検討 | 開示可能部分は黒塗りでも提供 | 知る権利への最大限配慮 |
住民から「意図的に隠している」と疑われた場合の対処法は?
探索した具体的範囲と方法を丁寧に説明し、必要に応じて再調査も検討しましょう
住民対応において最も重要なのは、行政の透明性と説明責任を果たす真摯な姿勢を示すことです。
文書が存在しない場合でも、なぜ作成されなかったのか、どのような業務フローで文書作成の要否を判断したのかを具体的に説明することで住民の理解を得られる場合があります。
当初の探索で見落としが判明した場合は、速やかに追加調査を実施し、開示決定の見直しを検討することが住民の信頼回復につながるでしょう。
よくある質問(FAQ)
令和3年判決について詳しく知りたいのですが、どこで確認できますか?
この判決は東京地方裁判所の公式判例集で確認できます。
裁判所ウェブサイトの判例検索システムで「布製マスク」「情報公開」をキーワードに検索すると該当判例が見つかります。
また、法律データベースや法律専門誌でも詳細な解説記事が掲載されています。
情報公開請求の探索義務違反で国家賠償が認められるケースは珍しいのでしょうか?
探索義務違反による国家賠償が認められるケースは比較的珍しいです。
本判決では慰謝料11万円と弁護士費用1万円の支払いが命じられました。
通常は不開示処分の取消しのみで終わることが多いため、職務上注意義務違反が認定されたこの事例は実務上重要な先例となっています。
保存期間1年未満文書も開示対象になるということは、メールなども全部残しておかなければいけないのでしょうか?
情報公開法上、保存期間に関わらず行政文書は開示対象となります。
ただし、業務上不要となった文書の削除自体は違法ではありません。
重要なのは、開示請求があった時点で存在する文書について適切な探索を行うことです。
組織的・継続的に保有している文書であれば、保存期間が短くても探索対象に含める必要があります。
やり取り記録文書と購入やり取り文書の違いがよく分からないのですが?
やり取り記録文書は職員と外部業者との交渉や協議の内容を記録した文書で、購入やり取り文書は職員間で交わされた調達に関する電子メールや添付文書のことです。
前者は業者との外部折衝の記録、後者は内部での情報共有や検討過程の記録という違いがあります。
どちらも調達の透明性確保の観点から開示対象となり得ます。
他の省庁でも同様の探索義務違反が問題になる可能性はありますか?
この判例で示された探索義務の基準は全省庁に適用されるため、同様の違反が問題となる可能性は十分あります。
特に大規模な政策実施や緊急対応が必要な業務では、文書管理が不十分になりがちです。
各省庁では本判例を参考に、情報公開請求への対応体制を見直すことが求められているのが現状です。
文書が存在しないという行政機関の説明に納得できない場合、どうすればよいですか?
まず不服申立て制度を活用して情報公開・個人情報保護審査会への審査請求を行うことができます。
それでも納得できない場合は、本件のように取消訴訟を提起する方法もあります。
ただし、訴訟には時間と費用がかかるため、まずは行政機関に対して探索範囲や方法について具体的な説明を求めることをお勧めします。
まとめ
この記事では、行政機関による「文書が存在しない」という不開示処分に対して、適切な文書探索を怠った探索義務違反に11万円の国家賠償を命じた重要な判例を解説しました。
- 文書存在の合理的可能性がある場合の十分な探索義務
- 保存期間1年未満文書も情報公開法上の行政文書として探索対象
- 業者との交渉経緯を記録した文書と単純な契約内容記録の判断基準
- 134名全員の電子メール完全削除は現実的に考えにくいという司法判断
この判決は情報公開制度の適正な運用において、行政機関の探索義務の具体的基準を示した画期的な事例です。
同様の情報公開請求を行う際や、行政文書の管理・開示業務に携わる場合は、この判例で示された探索義務の範囲と判断基準を十分に理解して対応することが重要となります。